川好きの一人として、鏑木清方(かぶらききよかた)の「墨田河舟遊」の屏風を見た時、なんとも艶やかで楽しそうな船遊びの様子を目の当たりにして、この屏風を案内したくなりました。
構図がよく似ている鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)の「吉野丸舟遊び」を見ても同様に感じました。
両者の絵に写るメインの屋形船は、ともに「吉野丸」です。
これらの絵を通して、屋形船船頭納涼の様子を紐解きながら、昔の隅田川への郷愁を綴ります。
1.鏑木清方「墨田河舟遊」
豪華な屋形船「吉野丸」を中心として、いくつもの舟が浮かぶ隅田川は、夏の納涼の季節を迎えています。
屋根の上で船頭らが、近づく舟との間合いをはかるために、長い竹ざおで忙しく操縦しています。
一方、舟の中では大名の一家が、人形舞の一座の芸に興じています。
緑の簾(すだれ)の向こうで、白地の豪華な着物に青い帯をして白い横顔を見せているのが、この家の姫君と思われます。
彼女の後ろ左右にはお付きの女性が控え、その手前の船首側には、脇差をした老人と稚児がいます。
そばの大きな蒔絵の台には、青々とした松や菖蒲が飾られています。
錨が置かれた船首の向こうには、すいかを載せた「うろうろ舟」が舟から船へと売りに回り、吉野丸に接近しようとしています。
その左側の屋形船には、白い着物の裾元をゆるりとくずした若い芸者が、武家の客とお付きの女性を後ろにして、舟の外へ視線を向けています。
吉野丸の向こうの猪牙舟では、猿回しの芸人が、服を着た猿を猿を船首にちょこんと乗せています。
さらに遠くには網を投げる漁師の舟も見えます。
夏の隅田川の納涼風景は、江戸の繁栄を象徴する情景として、浮世絵に度々描かれてきました。
鏑木清方も過去の浮世絵を研究し、大画面の屏風を描いたものと思われます。
2.鏑木清方の構想
清方がこの屏風「墨田河舟遊」を発表したのは1914年(大正3年)の第8回文展(文部省美術展覧会)で、2等賞(1等賞はなし)を受賞し、文部省買い上げとなりました。
当時36歳で、挿絵画家として出発後、徐々に本画に挑戦していった清方にとって、大きな手応えを得た作品となりました。
鎌倉市鏑木清方記念美術館の今西彩子氏によれば、この頃の清方は東京の山の手側の本郷龍岡町に転居して2年が経っていました。
それまで5年半は隅田川河畔の日本橋浜町で暮らしました。
「この作品の構想は、まだ浜町河岸に住んでいた頃から抱いていました。
私の家の格子を開ければ、間近くそこに大川がながれています。
私は筆を置いては河岸に出て、箸を置いてもそこに立ちました。
流れの水は元の水ではありませんが、幻想を誘うには充分でありました。」(「続こしかたの記」)
と、浜町時代に隅田川を身近に眺め暮らして画想をあたためたことを清方は告白しています。
3.鳥文斎栄之「吉野丸舟遊び」
(寛政年間:1789年~1801年、
大判錦絵5枚続、千葉市美術館蔵)
鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)「吉野丸船遊び」は、屋形船の内部の様子を詳しく描いた錦絵です。
同様に吉野丸において船内で芸が披露され、船首近くの蒔絵の台に松や花が飾られ、舟の舳先に猿回しの猿が乗った猪牙舟が煮えるなど、共通する題材が多くあります。
女性の髪型を見ますと、その違いが分かります。
栄之の浮世絵では、女性の結髪は、鬢(びん)が横に張り出した島田髷(まげ)で後ろはすっきりとしています。
清方の屏風の女性は、頭の後ろに髪をまとめた髱(たぼ)が大きく見えます。
この髪形は、栄之の絵が描かれた時代より20年前の髪形らしいです。
栄之の錦絵の吉野丸の船内には、芸人にも客にも男性の姿が一人も見えません。
これは現実的にあり得ない設定です。
全て美人で描かれる浮世絵は、得意の虚構の世界となります。
それに対し、清方は型にはまらないリアルな描写で、良き時代の隅田川の駘蕩とした雰囲気を表現しています。
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参考・引用文献
日本経済新聞 令和2年6月21日朝刊
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