首都高速道路の日本橋周辺における地下化事業が進んでいます。
ここに至るまでには、様々な紆余曲折がありました。
そもそも首都高速道路は、日本橋の下を流れる日本橋川に建設される予定でした。
台風被害の影響により日本橋の上を通るようになります。
しかし再度、日本橋の下を通る計画となりました。
そこに至った経緯を解説します。
1.日本橋川上部に首都高速道路ができた経緯

「1964年の東京オリンピック開催前に完成を間に合わせる必要がありました。
そのため、用地買収を必要としない日本橋川の上部空間を利用し、首都高速道路を川の流路に合わせた道路線形で計画された」といわれますが結果論です。
元々、首都高速道路は楓川のように、日本橋川の川床を通す案でした。
1-1.首都高速道路は元々日本橋の下を通る川床案が有力
首都高速道路における当初の計画は、日本橋の上部空間ではなく日本橋の下に建設される川床案が有力でした。
当時の日本橋川は、洗剤の泡が水面を覆い汚くて悪臭が漂う川でした。
都市景観に配慮して、日本橋川に蓋(ふた)をして覆うべきであるという地元の声すらありました。
仮に川床案にて建設されていれば、現在の日本橋の姿は無かったかもしれません。
1-2.首都高速道路は狩野川台風により高架案に変更・決定
1958年に狩野川台風が来襲し、東京において30万戸以上が浸水する甚大な被害に見舞われました。
豪雨による排水機能を確保するためには、日本橋川を残すべきであるという声が、逆に大きくなりました。
また、高架を走る高速道路は、当時の人々には「鉄腕アトム」の背景描写にある「美しい曲線」や「スマートな構造」を連想させました。

狩野川台風発生と同年の1958年に、日本橋川の川床案から上部空間による高架案へと変更・決定されました。
結果として、狩野川台風が日本橋川を救う形となりました。
東京オリンピック開催が決定されたのは翌年の1959年です。
その後、急ピッチで首都高速道路は建設されることとなります。

(出所:東京都都市計画局)
1-3.首都高速道路の建設経緯
首都高速道路の建設経緯を下表にまとめます。

2.首都高速道路の日本橋周辺における地下化経緯
首都高速道路が完成し、東京都心部の流通を支えることにより、東京オリンピックは大成功を収めました。
しかし、平常を取り戻しますと、地元住民や商店主などは日本橋の上部を覆う首都高速道路に対して、徐々に違和感を感じるようになります。

2-1.名橋「日本橋」保存会発足
「重要文化財でもある日本橋の歴史的な景観を損ねているのでは?」との声が徐々に上がるようになりました。
首都高速道路ができる前の姿を甦らせる運動が早くも起きます。
地元商店・飲食店・企業などの老舗の経営者や三越百貨店(旧越後屋)、住民などにより、1968年に名橋「日本橋」保存会が設立されました。
その後1983年に「よみがえれ日本橋宣言」を決議し、首都高速道路を地下に移設し、日本橋の雄姿を甦らせることを誓い合いました。
他にも、
- 隅田川市民交流実行委員会
- 神田川を考える会(現:神田川ネットワーク)
- リバーループ東京研究会(現:環境総合整備機構)
- 日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会
- 日本橋学生工房
などが発足し、同じく首都高速道路を地下へ移設し、日本橋(川)の再生を提唱しました。
2-2.首都高速道路の耐震化が契機
首都高速道路公団(現:首都高速道路株式会社)は、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災により阪神高速道路が倒壊した事実に衝撃を受けました。
それまで日本の耐震技術であれば、高速道路は倒壊しないと信じられてきたからです。
その神話が崩れさることにより、首都高速道路を耐震補強する検討に入ります。

2-2-1.当初は高架橋維持による耐震改修案
当初は地下化ではなく、現状での耐震改修案が形成されつつありました。
2014年に首都高速道路株式会社は、首都高速道路の耐震化を発表し、高架橋を維持する方針でした。
そうなりますと今後50年~60年に亘り、日本橋(川)の上部空間を首都高速道路が覆い続けることになります。
日本橋の地元である中央区や名橋「日本橋」保存会などは反対することになります。
2-2-2.首都高速道路都心環状線の撤去案を進言
中央区は当初、首都高速道路都心環状線の完全撤去を主張していました。
首都圏にある高速道路の環状線は都心環状線以外に、
- 中央環状線(首都高速中央環状線)
- 外環(東京外郭環状道路)
- 圏央道(首都圏中央連絡自動車道)
の3環状が整備されようとしています。
それらが整備されると都心環状線の交通量が減少し、不要になるとの分析が中央区にはありました。
この裏付けを取るために、国土交通省と中央区が、別々に交通量広域シミュレーションを行った結果、交通量は5%しか減少しないことが、それぞれで判明します。
この結果により完全撤去案は採用できないことが判明しました。
2-2-3.街の再開発と共に地下化案を採用
中央区内では、日本橋1丁目中などの5地区で再開発がこれから行われます。
中央区は、首都高速道路の地下化を日本橋再開発と同時並行する方法で行うと、効率よく進められると考えました。
地下鉄は、東京メトロ半蔵門線や銀座線が通り、電力ケーブルやNTT回線、給排水管、ガス管が網の目のように地中に埋まっています。
それらを抜けて高速道路を通すことは至難の業となります。
再開発と並行する方法を採用しますと、地下のインフラ設備も面的に整備され、高速道路の建設もし易くなります。
2017年7月に中央区は、国土交通省と東京都に対して、首都高速道路の地下化を正式に申し入れました。
その1週間後に、石井元国交相と小池都知事が、「日本橋周辺の首都高速の地下化に向けて取り組む」と発表することになります。
下の動画は、両者が発表する様子を撮影されたものです。
(出所:TOKYO MX)
2-3.建設費総額は約3,200億円
計画当初、地下部分の大半をシールド工法で施工することにより、4,000億円を超える事業規模となりました。
しかし、事業費が高すぎると批判の声が挙がり、事業費圧縮の対策を採ることになります。
その対策として、
・護岸部の下は開削工法
・日本橋川の下部区間はシールド工法
へと変更しました。

出所:名古屋市上下水道局(※1)
その結果、事業費を3,200億円まで、約1,000億円の工事費削減を行いました。
日本橋川の下部を横断する区間はシールド工法で、その両岸は開削工法による工事に変更した結果、当初の建設工事費を約1,000億円削減することとなります。
ただし開削工法の採用で、工事期間中に日本橋川の船舶航行不可の期間が2~3年設けられることになります。
ようやく日本橋川の舟運が復活し、水辺観光客が増加している中、舟運機能が2~3年止められるのは、水都東京にとっては痛手となります。
2-4.首都高速道路の日本橋周辺における地下化経緯
首都高速道路の日本橋周辺における地下化経緯を下表にまとめます。

(1968 年~2014 年)※2

(2015 年~2021 年)※2
3.首都高速道路の日本橋周辺における地下化計画
首都高速道路都心環状線の現況図並びに地下化案は下図の通りです。
3-1.首都高速道路都心環状線:日本橋周辺現況
下図は、首都高速道路都心環状線の日本橋付近の現況平面図です。

日本橋周辺(出所:東京都) ※3
3-2.首都高速道路都心環状線:地下化案
下図は、首都高速道路都心環状線の日本橋周辺における地下化案の平面図です。

日本橋周辺(出所:東京都) ※3
下図は地下化案の縦断図です。

日本橋周辺(出所:東京都) ※3
下図は、地下化案の横断図です。



日本橋周辺(出所:東京都) ※3
3-3.首都高速道路株式会社:PR動画
首都高リニューアルプロジェクト「日本橋区間地下化事業」を紹介します。
~日本橋区間地下化事業vol.1(事業概要編)~
(出所:首都高速道路株式会社)
4.まとめ
首都高速道路の建設は、1964年開催の東京オリンピックを前に完成しました。
首都高速道路の日本橋周辺における地下化は、2021年開催の東京オリンピックの後に建設が着手されます。
偶然にも共に東京オリンピックを契機に建設されることとなりました。
忘れてならないのは、首都高速道路は日本の大動脈としての役目を十分に果たしてきました。
もう一つは、地元の長年に亘る地道な活動があったからこそ、首都高速道路の日本橋周辺における地下化は実現しました。
時代とともに価値観・評価は変遷し、それに伴い街づくりも変化し続けます。
首都高速道路の地下化は、その現われの一つでしかありません。
筆者としては、シールド工法を全面的に採用し、日本橋川の舟運が途切れないことを臨みます。
しかし、約1,000億円の工事費削減となれば、強く主張することはできません。


写真4.日本国道路元標(右写真)
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6.出所・参考
※1 「工法説明~シールド工法ってなに?~」
名古屋市上下水道局
https://www.water.city.nagoya.jp/category/nagoyatyuou_kensetsu/142022.html
※2 「首都高日本橋地下化検討会」
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/exp-ug/
※3 「日本橋周辺のまちづくりと連携した首都高速道路の地下化に向けた取組」
東京都都市整備局
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bunyabetsu/kotsu_butsuryu/kosoku_torikumi.html
※4 「日本橋上空の首都高速道路架設工事(昭和38年開通:東京都中央区)」
土木ウォッチャーズ
※5 「まち日本橋」
三井不動産株式会社
https://www.nihonbashi-tokyo.jp/enjoy/feature/201104/
※6 「日本橋の将来イメージ」
日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会
(出所:日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会)
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