アパート・マンション経営を検討する場合、
「経営の現状(リスク)を客観的に把握できないだろうか?」
「経営の現状(リスク)を見える化できないだろうか?」
と、お悩みの方はいませんか?
実は、バランスシートを活用することにより、アパート・マンション経営の現状(リスク)を見える化できます。
この記事では、
- アパート経営:バランスシートなどの財務三表で分析
- アパート経営の現状(リスク)をバランスシートで見える化
- アパート経営の節税対策:バランスシート作成で効果発揮
- アパート経営:投資はバランスシートの改善から
について解説します。
1.アパート経営:バランスシートなどの財務三表で分析
アパート経営において、決算書は、アパートの経営・財務の状態を示す財務諸表のことです。
主な財務諸表には、
・貸借対照表(バランスシート)
・損益計算書
・キャッシュフロー計算書
があります。
特に3つの書類を合わせて「財務三表」といいます。
この記事では「財務三表」の概要に触れながら、貸借対照表(以下、バランスシート)に焦点を当てて解説します。
アパートの経営・財務の状態がわかる決算書は、以下のときに必要です。
①税務署への確定申告
②金融機関への融資審査
③利害関係者によるアパートの経営判断
アパートの経営状況・分析の観点から、決算書である財務三表の各書類の解説をします。
1-1.バランスシート(Balance Sheet:BS):貸借対照表
バランスシートは、アパート経営の会計期間における
・資金調達
・資金運用
の状態を示す書類です。
資産の部で資産運用の状況を示します。
負債の部で資金調達の状況を示します。
純資産の部で資産から負債を差し引いた返済義務のない資本を示します。
バランスシートの構造は、左側と右側に分かれています。
左側の合計と右側の合計が同じになります。
つまりバランスするので、バランスシートといいます。
バランスシートの左側は資産、右側は負債+純資産となります。
バランスシートから、負債を小さく純資産を大きくすると良いことがわかります。
債務超過になれば、金融機関からの借入が厳しくなります。
1-1-1.資産(左側)
資産は、現在所有している財産です。
・現金
・売掛金
・固定資産(土地・建物)
などがあります。
所有する資産をどのように運用しているかがわかります。
1-1-2.負債(右側)
負債は、金融機関への返済残高など、他人資本による調達です。
不動産投資ローンや未払金などがあります。
資産を獲得するために、どのような方法で資金を調達したかがわかります。
1-1-3.純資産(右側)
純資産は、返済不要な資金(自己資金)です。
資産(左側)と負債・純資産(右側)により、アパート経営のある時点における資産の
・所有方法
・調達方法
がわかります。
アパート経営分析の観点から、バランスシートの重要性は、
・資産
・負債
・純資産
のバランスです。
資金調達できても、上手に運用できなくては、アパート経営として利益を生まないからです。
1-2.損益計算書(Profit and Loss statement:PL)
損益計算書は、アパート経営の会計期間における営業活動の利益や費用を表す書類です。
この書類により、どれだけ利益を出したか?
利益を出すために、どれだけ経費を出したか?
がわかります。
損益計算書は、バランスシートのように左右に分けて表すのではなく、
上から順番に売上(収益)から費用(コスト)を差し引き、利益(儲け)を計上する方法で表します。
一般的に、売上高から、
・売上原価
・販売費及び一般管理費
・営業外費用
などを差し引き、利益を計算します。
アパート経営の場合、
・営業外収益
・営業外費用や特別利益
・特別損失
の勘定科目は、通常使うことはないです。
・在庫
・仕入れ
も発生しないため、製造業・販売業の損益計算書とは異なります。
アパート経営分析の観点から、損益計算書の重要性は、損益分岐点を見ることです。
売上(家賃収入など)が増加しても、そのための費用も増加します。
費用の増加割合が大きくなりますと、売上が増加しても利益はゼロになります。
このときの売上高が損益分岐点です。
費用が、
・損益分岐点を超えるまでは黒字
・損益分岐点を超えたら赤字
となります。
1-3.キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement:CF)
キャッシュフロー計算書は、アパート経営の会計期間におけるキャッシュフローを示す書類です。
・営業活動(本業)
・投資活動(投資関連の購入や売却)
・財務活動(金融機関や株式・社債発行など)
の3つに分かれています。
損益計算書だけでは、会計期間にどれだけ資金が投資され、どれだけ回収されたか分かりません。
損益計算書で利益が出ていても、売掛金の回収が遅くなりますと、資金不足となります。
アパート経営分析の観点から、キャッシュフロー計算書の重要性は、3つのキャッシュフロー
・営業活動
・投資活動
・財務活動
のバランスです。
次項以下では、バランスシートをより掘り下げて解説します。
2.アパート経営の現状(リスク)をバランスシートで見える化
アパート経営をバランスシートの観点で見ますと、
- 資産には、
・アパートの建物や土地などの固定資産
・家賃収入などの流動資産
が入ります。 - 負債には、不動産投資ローンを組んでいる場合の長期借入金の固定負債が入ります。
- 純資産には、大半を現金から調達している場合には、自己資本が大半を占めます。
アパート経営をバランスシートにまとめることで、
・所有するアパートの規模
・不動産投資ローンの利用有無
・自己資金による投資の有無
などがわかります。
2-1.バランスシートは、経過年数により変化
バランスシートを時系列で見ていきますと、
2-1-1.アパート経営:開始当初
アパート経営を開始した当初は、バランスシートの
・資産(左側)には、不動産購入額
・負債(右側)には、不動産投資ローン残高
・純資産(右側)には、自己資本
が入ります。
2-1-2.アパート経営:年数経過後
アパート経営は、年数経過により、バランスシートの
- 資産(左側)には、
・減価償却が進み建物価値が下がった不動産評価額
・家賃収入による現金
が入ります。 - 負債(右側)には、返済により減少した不動産投資ローン残高が入ります。
- 純資産(右側)には、家賃収入により増加した自己資本が入ります。
20年~30年とアパート経営が順調に進めば、自己資本が増加します。
アパート経営開始当初と比較して、純資産が10倍近くになることもあります。
この状態になれば、アパート経営は成功といえます。
【事例1】
5,000万円のアパートを
・自己資金500万円
・不動産投資ローン4,500万円
で購入した場合
・建物:3,000万円
・土地:2,000万円・
・年間家賃収入:500万円
・年間キャッシュフロー:100万円
・不動産投資ローン期間:25年
ただし、
・建物部分:2,100万円(34年)
・設備部分:900万円(15年)
評価にて減価償却
比較しますと、
・アパート購入時の純資産は、500万円
・不動産投資ローン完済後の純資産は、5,056万円
となり、約10倍となりました。
入居率を高く、建物維持のための修繕を欠かさず行えば、このような結果となり、アパート経営は成功したといえます。
2-2.バランスシートから見える資産形成
アパート経営への投資活動が、資産、負債、純資産の仕組みがわかることで、
- バランスシート上の「資産」を増加
- 「資産」の増加により「純資産」を増加
する行為であることがわかります。
アパート経営に投資する際、資産の増減の判断が、
・損益計算書
・キャッシュフロー計算書
のシミュレーションとも合わせて検討することにより、可能となります。
2-3.バランスシートの釣合でリスク判断
不動産投資のリスクを判断するには、純資産の割合が重要です。
アパート経営では自己資金に当たります。
【事例2】
2,000万円の中古アパートを
・自己資金:500万円
・不動産投資ローン:1,500万円
で購入した場合
【事例3】
5,000万円の新築アパートを
・自己資金:500万円
・アパートローン:4,500万円
で購入した場合
資産が大きくなりますと、家賃収入は増加しますが、
・負債:増加
・純資産:減少
します。
負債と純資産(自己資金)の割合を比較した場合、【事例3】は、
・負債が大きい
・純資産が小さい
ので、バランスが悪い(メタボ型バランスシートである)ことがわかります。
資産・負債・純資産のバランスが崩れると、倒産・破産のリスクの可能性が高まります。
リスクを避けるには、純資産の割合を大きくすることです。
逆に純資産の割合が大きくなりますと、
・新たな大きな負債に対応可能
・大きな資産形成が可能
となります。
バランスシートを意識してのアパート経営の投資活動が大切です。
3.アパート経営の節税対策:バランスシート作成で効果発揮
損益計算書、バランスシートを作成すれば、青色申告による青色申告特別控除を受けることが出来ます。
3-1.青色申告
税金面での有利な特典を受けることが出来ます。
「所得税青色申告決算書(不動産用)を作成し、確定申告書に添付して税務署に提出します。
3-2.青色申告のメリット
青色申告のメリットは、主に5つあります。
3-2-1.青色申告特別控除
基礎控除の他に、
・10万円控除
・65万円控除
の2種類の特別控除があります。
事業的規模
・10室以上の賃貸等
・貸家なら5棟以上
に満たないアパート経営の場合、
・単式簿記で記載したもの
・損益計算書
を添付し申告期限内に提出すれば、課税所得から10万円の控除が認められます。
事業的規模にてアパート経営を行い、
・複式簿記で記載したもの
・バランスシート
・損益計算書
を添付し申告期限内に提出すれば、課税所得から最高65万円が、青色申告特別控除として控除出来ます。
3-2-2.青色事業専従者給与
家族を従業員としている場合、その給料を経費とすることが出来ます。
・事業の専従者
・15歳以上
・生計を共にする配偶者や親族
が対象となります。
ただし、専従者とした場合、
・配偶者特別控除
・扶養控除
などの適用はありません。
3-2-3.貸倒引当金の計上
貸倒は、取引先の倒産などの理由で、債券(売掛金や受取手形など)が回収不可になることです。
その損失を貸倒損失といいます。
青色申告ですと、年末時点で、
・売掛金
・貸倒による損失見込額(貸倒引当金)
を必要経費として計上できます。
3-2-4.純損失の繰越しと繰戻し
課税所得で赤字になった部分を、翌年以降3年間に亘り、各年の課税所得の黒字分から損益通算出来ます。
ただし、赤字のうち、土地を取得するために要した借入の利息については、損益通算の対象になりません。
課税所得を抑えることで減税に繋がります。
3-2-5.少額減価償却資産の特例
通常10万円以上の減価償却資産は、耐用年数により経費化可能です。
しかし、青色申告であれば、「少額減価償却資産の特例」を受けることが可能です。
つまり、30万円未満の償却資産であれば、その事業年度の経費として一括処理が可能な特例です。
ただし、この特例の合計限度額は、年間300万円までです。
適用品目として、事業に使用する
・PC
・機械
・備品
・無形固定資産(特許権、ソフトウェアなど)
などが含まれます。
中古品でも適用され、例えば30万円未満で購入した中古車なども対象になります。
3-3.青色申告のデメリット
複式簿記による帳簿作成に手間がかかります。
また、確定申告の提出書類が多く複雑です。
なお、青色申告などの確定申告については、下記の記事をご覧ください。
4.アパート経営:投資はバランスシートの改善から
書店に行きますと、サラリーマンや主婦が著した不動産投資関連本が書棚に並んでいます。
そこには、一気に数億円の資産(アパート・マンション)を形成した旨のことが書かれています。
読んでみますと、大半が純資産ではなく負債を含んだ資産の金額であることがわかります。
それも資産と負債がほぼ同額・債務超過一歩手前のメタボ型バランスシートになっています。
おそらく著者本人は、自身が抱えるリスクの状況がわかっていないのでしょう!
4-1.自己資本比率
「1-1.バランスシート」でも触れましたが、
でした。
債務超過になれば、新たな融資を受けることは不可能です。
債務超過にならないために、最低条件として、
資産―負債=純資産>0
の状態になるように、気をつけなければなりません。
ここで自己資本比率という指標があります。
アパート経営の健全性を測る上で重要な指標です。
【事例2】の場合、自己資本比率は25%
【事例3】の場合、自己資本比率は10%
となります。
できれば、自己資本比率を30%以上は保ちたいところです。
【事例3】は、明らかにリスクの高いバランスシートになっていることがわかります。
4-2.金融機関目線
金融機関の目線を、自己資本比率と不動産評価の観点で考察します。
4-2-1.自己資本比率
金融機関の目線は、融資審査の厳しい都市銀行や信託銀行では、アパート・マンション経営において、自己資本比率を30%以上は求めます。
【事例2】では、2,000万円の物件であれば、600万円以上の自己資金を求めます。
【事例3】では、5,000万円の物件であれば、1,500万円以上の自己資金を求めます。
それだけ健全なバランスを求めることがわかります。
融資審査の比較的緩いノンバンクは、自己資金比率が0に近くても融資する場合があります。
その分金利が高くなり、バランスシートは、極めてリスクの高い状態に置かれます。
4-2-2.不動産評価
決算書上のバランスシートは、債務超過になっていなくても、金融機関が評価したバランスシートでは、債務超過になっている場合があります。
【事例4】
1億円のアパートを
・自己資金:1,000万円
・不動産投資ローン:9,000万円
で購入した場合を想定します。
・決算上のバランンスシートの場合
・金融機関のアパートに対する評価が、5,000万円の場合
を比較してみます。
図22.金融機関評価上のバランスシート(右図)
金融機関評価上のバランスシートでは債務超過になり、融資は出来ないとの判断になります。
逆にいえば、金融機関による評価以下の金額で、アパートを購入できれば、
・含み益が発生
・純資産の割合が増加
し、融資を受けやすくなります。
例えば、金融機関評価が4,000万円のアパートを3,000万円で購入出来たとします。
金融機関にとって、純資産が1,000万円増加したような評価となります。
なお、金融機関による不動産投資ローンについては、下記の記事をご覧ください。
4-3.投資家目標
投資家の目標ラインの一つとして、
「月額キャッシュフロー:100万円」
という設定があります。
アパート経営の平均的なキャッシュフロー率は、満室時家賃収入の20%です。
月額キャッシュフローを100万円出すためには、
・月額家賃収入: 500万円
・年額家賃収入:6,000万円
が必要になります。
表面利回りが、10%ある物件ですと、6億円相当のアパートが必要です。
バランスシート上、安全圏の目安として自己資本比率を30%とした場合、1億8,000万円の自己資金が必要になります。
その状態のバランスシートを保てる投資家はごく少数になります。
上記にもしましたが、サラリーマンや主婦の投資家のバランスシートは、自己資金比率が10%を割っている場合が多いです。
その状態から
・不動産投資ローンを数十年にわたり返済
・高い入居率(90%以上)を維持
・建物の修繕
を確実にこなした投資家だけが、良好なバランスシートを形成できます。
出来なければ、途中でアパートを売却して処分することになります。
4-4.アパート経営投資はバランスシートの改善から
アパート経営に投資する際、自己資金比率を出来るだけ高くして手ごろな物件から始めます。
・高い入居率の維持
・繰り上げ返済
などを並行して行うことにより、負債を減少させ純資産を増加させます。
バランスシートが良好な状態になれば、次のアパートへ投資をします。
バランスシートを改善しながら、アパートを購入するスタンスを取れれば、投資活動は順調にいきます。
5.まとめ
以上、
- アパート経営:バランスシートなどの財務三表で分析
- アパート経営の現状(リスク)をバランスシートで見える化
- アパート経営の節税対策:バランスシート作成で効果発揮
- アパート経営:投資はバランスシートの改善から
について解説しました。
バランスシートを念頭に置いてアパート経営を考えますと、仕入れ(アパート購入金額)がいかに大切かがわかります。
繰り返しになりますが、決算上バランスシートに記載される金額は「購入金額」です。
しかし、金融機関目線は、バランスシートに記載する金額は「売却金額」です。
「購入金額」よりも「売却金額」があまりにも小さく評価されますと、金融機関目線は、債務超過と判断する可能性が高くなります。
そうなりますと融資は不可です。
購入金額と売却金額が近い物件探しを出来ることが、不動産投資家としての腕の見せ所となります。
購入金額よりも売却金額が上回る物件探しが出来る投資家は「一流の目利きの投資家」といえます。
それは、バランスシートが理解出来ていないと、そのような投資活動は出来ません。
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