大都市圏の0メートル地帯は、洪水と高潮による水害リスクに常にさらされています。
台風の巨大化により益々リスクが大きくなっています。
その対策として、現代版「水屋・水塚」ともいえる「ダイクハウス」(堤防住居)の概念導入・法整備、建設を行う必要性が出てきました。
1.ダイクハウス(堤防住居)とは?

ダイクハウスの語意や事例、メリット・デメリットについて説明します。
1-1.ダイクハウスとは?
1-2.ダイクハウスの事例
ダイクハウスのヨーロッパでの事例を下記に挙げます。
1-2-1.オランダ・アムステルダム市(アイ湖)
下図はオランダのアムステルダム市にあるアイ湖水辺のダイクハウスです。
住居戸数は7戸あり、河川占用料は不要です。


図1.ダイクハウスのイメージ断面図(右図)
(出所:公益財団法人リバーフロント研究所) ※1
下図は、ダイクハウスの事業スキームとなります。

(出所:公益財団法人リバーフロント研究所) ※1
1-2-2.オランダ・アルメーレ市
下図は、オランダのアルメーレ市にあるダイクハウスです。
10種類のメゾネットタイプで構成される4層の集合住宅が100戸あり、低層住宅が150戸、駐車場248台で構成されています。



(出所:NEZUAYMO) ※4
1-3.ダイクハウスのメリット・デメリット
ダイクハウスのメリット・デメリットを下表にまとめます。
メリット | デメリット |
堤防上に建築するので、敷地確保が容易 | 日本では、認知されていない |
堤防上に建築するので、立退きなどの交渉不要 | 日本では、法整備がされていない |
堤防上に建築するので、地域で一番安全 | 堤防上に建築するので、地盤補強が必要 |
2.ダイクハウスは日本では建築不可

ダイクハウスは、日本国内では「河川法」により建築はできません。
該当する河川法の条文を下記に挙げます。
2-1.河川法第24条(土地の占用の許可)
河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
2-2.河川法第26条(工作物の新築等の許可)
河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
河川の河口附近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、同様とする。
2 高規格堤防特別区域内の土地においては、前項の規定にかかわらず、次に掲げる行為については、同項の許可を受けることを要しない。
一 基礎ぐいその他の高規格堤防の水の浸透に対する機能を減殺するおそれのないものとして政令で定める工作物の新築又は改築
二 前号の工作物並びに用排水路その他の通水施設及び池その他の貯水施設で漏水のおそれのあるもの以外の工作物の地上又は地表から政令で定める深さ以内の地下における新築又は改築
三 工作物の地上における除却又は工作物の地表から前号の政令で定める深さ以内の地下における除却で当該工作物が設けられていた土地を直ちに埋め戻すもの
3 河川管理者は、高規格堤防特別区域内の土地における工作物の新築、改築又は除却について第一項の許可の申請又は第三十七条の二、第五十八条の十三、第九十五条若しくは第九十九条第二項の規定による協議があつた場合において、その申請又は協議に係る工作物の新築、改築又は除却が高規格堤防としての効用を確保する上で支障を及ぼすおそれのあるものでない限り、これを許可し、又はその協議を成立させなければならない。
4 第一項前段の規定は、樹林帯区域内の土地における工作物の新築、改築及び除却については、適用しない。
ただし、当該工作物の新築又は改築が、隣接する河川管理施設(樹林帯を除く。)を保全するため特に必要であるとして河川管理者が指定した樹林帯区域(次項及び次条第三項において「特定樹林帯区域」という。)内の土地においてされるものであるときは、この限りでない。
5 河川管理者は、特定樹林帯区域を指定するときは、国土交通省令で定めるところにより、その旨を公示しなければならない。これを変更し、又は廃止するときも、同様とする。
2-3.許可申請が必要な区域
河川に工作物などを新築する場合の範囲は下図の通りです。

(出所:国土交通省) ※6
2-4.日本での事例無し
上記「河川法」により堤防内での建物の建築は、河川管理施設以外はできませんので、日本国内でのダイクハウスの事例はありません。
3.地域の洪水・高潮対策としてのダイクハウス

ダイクハウスは、地域の洪水対策・高潮対策として、最も有効で安全な場所となります。
現代版「水屋・水塚」といえます。
3-1.堤防の上(高台)が一番安全
「1-3.ダイクハウスのメリット・デメリット」でも触れましたが、河川が流れる地域の中で、洪水時や高潮時に最も安全な場所は、堤防天端の上部空間となります。
仮に洪水により河川水が氾濫して堤防上を越流した場合、ダイクハウスの1階部分の構造が、氾濫水をスルーできる仕様にしておけば、それ以上水位が上がることはありません。
したがって、ダイクハウスの2階以上に居住する人たちの安全が確保されることとなります。
また、洪水時に、地域住民の避難場所としても活用することができ、「命山」としての役目も果たします。
3-2.ダイクハウスは現代版「水屋・水塚」
かつて洪水・高潮対策を目的として、人の背を越す高さの盛り土や石垣を「水塚」、水塚の上に建てられた蔵を「水屋」といいました。
頻繁に洪水に見舞われた地域には、そこに住む人々の知恵から生まれた水防建築がありました。
水屋に人、食物、大切な家財道具などを避難させ守ってきた歴史があります。
そこには常に水害と向き合う生活スタイルが存在しました。現在の「with コロナ」ならぬ「with 水害」の意識です。
ダイクハウスは、現代版「水屋・水塚」といえ、先人の知恵を現代に活かした住居スタイルの再生ともいえます。(※7)

出所:「水屋・水塚」LIXIL出版
執筆者:畔柳昭雄、高橋裕、渡邉裕之、河合孝

3-3.メタバースにてダイクハウスを作成
メタバースプラットフォーム「cluster」(ワールドクラフト)を利用して、ダイクハウスを作成しました。
よろしければ、ご覧ください。

「ダイクハウス」(堤防住居)の提案
なお、荒川第2放水路(地下河川)の提案については、下記の記事をご覧ください。


4.スーパー堤防への架け橋としてのダイクハウス

スーパー堤防の建設により、地盤が嵩上げされ、水害による被害のリスクが著しく減少したことに伴い、先進的なまちづくりが進められました。
しかし、スーパー堤防建設は道半ばで、多くの箇所で建設の目途が立っていません。
そこで洪水や高潮からの避難対策の一つとして、またスーパー堤防への促進化を図る上においてもダイクハウスの建築を提案します。
4-1.スーパー堤防とは?
スーパー堤防(高規格堤防)は、土でできた、ゆるやかな勾配を持つ幅の広い堤防です。
広くなった堤防の上は、通常の土地利用が可能で、新たなまちづくりを行うことができます。
堤防の幅を非常に広くして破堤を防ぐ高規格堤防は、地震にも強く、万が一計画を超えるような大洪水が起きた場合でも、水が溢れることはあっても壊滅的な被害は避けることができます。

出所:国土交通省 ※8
4-2.スーパー堤防の事例
荒川と隅田川におけるスーパー堤防の事例を2箇所挙げます。
4-2-1.荒川:小松川地区

(出所:公益財団法人リバーフロント研究所)※1

(出所:公益財団法人リバーフロント研究所) ※1
4-2-2.隅田川:大川端地区

(出所:公益財団法人リバーフロント研究所) ※1
4-3.スーパー堤防のメリット・デメリット
スーパー堤防のメリット・デメリットをまとめますと下表の通りです。
メリット | デメリット |
越水しても壊れることが無く、越水も緩やかに流れる。 | 既存宅などの立退きや移転先などの交渉に莫大な資金と時間を要する。 |
幅が広いため、浸透水により壊れることは無い。 | 堤防用地の確保に莫大な資金と時間を要する。 |
軟弱地盤を地盤改良することで、地震に強い。 | 堤防建設に莫大な資金と時間を要する。 |
4-4.スーパー堤防への架け橋としてのダイクハウス
国土交通省が提唱するスーパー堤防は、一部完成していますが、全体の完成は未だに見通すことができない状況です。
その時短案としてダイクハウスを活用する方法があります。
4-4-1.これまでのスーパー堤防の整備前後の概念
下図は、スーパー堤防の整備前後の概念図です。

出所:「激甚化する水害」日経BP社
著者:気候変動による水害研究会 ※9
最大のデメリットは、堤防周辺に存在する既存住宅やビルなどの立ち退き交渉や権利解消、引っ越し先交渉などに莫大な資金と時間を要することです。
そのため、堤防用地の確保の目途が立たず、全体の完成がいつになるのかの目途が全く立たないことです。
4-4-2.スーパー堤防への架け橋として、ダイクハウスを建築
ダイクハウスの法整備などを行った上で、立退き・移転交渉と並行して河川区域内にダイクハウスを建築します。
移転先の一つとして選択していただき、空室が出れば外部からも入居者を募集します。
移転後の既存住宅やビルなどの解体工事を進めていき、スーパー堤防の用地を確保します。
用地の確保が終われば、地盤の嵩上げ工事を行い、スーパー堤防を建設します。

ダイクハウスが建築されれば、スーパー堤防が建設されていなくても、洪水や高潮による氾濫水からの避難場所として機能することができます。
0メートル地帯の嵩上げが進めば、安全安心なまちづくりの推進を早め、土地評価額を上げる効果も見込めます。
5.まとめ
以上、
- ダイクハウス(堤防住居)とは?
- ダイクハウスは日本では建築不可
- 地域の洪水・高潮対策としてのダイクハウス
- スーパー堤防への架け橋としてのダイクハウス
について解説しました。
先人は、人間の造った堤防などを当てにすることなく、常に水害と向き合い、自助努力・相互扶助の精神で「水屋・水塚」を造りました。
現代人の私たちもダムや堤防に頼りつつも、氾濫や堤防決壊という最悪の事態を想定して、現代版「水屋・水塚」であるダイクハウスを造る必要があります。
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7.参考・引用文献・WEBサイト
※1 「日本の水辺と世界の水辺」 公益財団法人リバーフロント研究所
https://www.mlit.go.jp/river/kankyo/main/kankyou/machizukuri/pdf/02-03.pdf
※2 「増補改訂 欧米諸国における 治水事業実施システム」(平成13年2月)
財団法人 国土技術研究センター
http://www.jice.or.jp/cms/kokudo/pdf/reports/autonomy/river/autonomy_kasen_01.pdf
※3 「世界水フォーラムとライン川のほとり,オランダの風土」(2002年3月) 財団法人河川環境管理財団
https://www.kasen.or.jp/Portals/0/pdf_kasen03/study02b_04.pdf
※4 「DIKE HOUSE」 NEZUAYMO
http://www.nezuaymo.com/dikehouse.php
※5 「河川法」 電子政府の総合窓口 e-Gov
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=339AC0000000167
※6 「河川法の許可が必要な行為」 国土交通省中部地方整備局
木曽川上流河川事務所
http://www.cbr.mlit.go.jp/kisojyo/river-law/kyoka.html
※7 「水屋・水塚 ──水防の知恵と住まい」 LIXIL出版
執筆者:畔柳昭雄、高橋裕、渡邉裕之、河合孝
https://livingculture.lixil.com/publish/—-4/
※8 「高規格堤防整備事業」 国土交通省関東地方整備局 京浜河川事務所
https://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin00162.html
※9 「激甚化する水害」 日経BP社 著者:気候変動による水害研究会
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